夏休みに子どもたちが京都の伝統工芸を体験

京扇子づくり体験レポート

京都の伝統工芸を体験する機会として、公益財団法人京都伝統産業交流センターの主催、一般財団法人三洋化成社会貢献財団の支援による「令和6年度 京の匠の技を知る!子ども伝統工芸体験」が、会場となった東福寺大慧殿だいえでん(京都市東山区)にて実施されました。

小・中学生を対象に、4日間のうち前半2日間は京七宝、後半2日間は京扇子の制作体験が行われました。1日2部制で各回子ども約20名と保護者が参加。当記事の取材には、8月4日13:30~15:00の京扇子の回に訪れました。

体験前に京扇子について知る

冒頭で、この体験教室を指導する京都扇子団扇商工協同組合の方から、扇子についての約20分の講話がありました。まず、「扇子はどんな時に使うでしょうか?」との問いかけに、子どもたちから最初に「夏の暑い時」との返事が返ってきました。続けて、「他にはどんな時があるかな?」との問いかけに、「茶道の時」との返事があり。そこから話が展開し、扇子には様々な種類があり、それぞれ用途や使われる場が異なることの説明がされました。 京都では、結婚するときに新郎新婦がそれぞれ決まった種類の扇子を交換して結婚式に持つことが古来の風習となっていたという話や、僧侶が使う「中啓ちゅうけい」や、日本舞踊に使う「舞扇まいおうぎ」、戦国武将たちが護身用に使っていたという「鉄扇てつせん」など、大きさや素材の異なる多様な扇子がそれぞれ実物を見せながら説明され、子どもたちは興味津々で聞き入っていました。 続いて、扇子のルーツの話へ。平安時代に日本で生まれたといわれており、当初は木簡を並べて組み合わせた「檜扇ひおうぎ」が貴重な紙の代わりに文字を記す用途に使われていたといいます。やがて扇面に紙を貼った「蝙蝠扇かわほりおうぎ」が誕生し、装飾品として貴族たちが正装と合わせて使うように。さらには、扇に和歌をしたためてラブレターとして使われていたとの解説もありました。 そうして日本で生まれた扇子は、やがて中国に献上品として納められるようになり、その後シルクロードを渡って世界に広まっていき、各地で発展したということを教わりました。
京扇子の講話
様々な用途に使われる扇子のサンプル

制作体験では仕上げ工程の一端に挑戦

講話の後はいよいよ制作体験。この日は「87回職人の手を通る」といわれる京扇子の工程のうち、仕上げの工程となる「地吹じふき」と「中附なかつけ」という作業を子どもたちが体験しました。

作業に使う扇の地紙じがみは、あらかじめ5つの絵柄の中から子どもがそれぞれ1つ選んだもので、既に3枚の紙を職人の手によって貼り合わせた加工済み。そして、その紙と紙の隙間に息を吹き入れて、通り道となる穴を広げる「地吹き」の作業では、「息を吹き込むときになるべく唾で紙を濡らさないように!」との指導を受けながら、子どもたち各々が息を吹き入れる音が会場に広がりました。

地吹きの次は、扇子の骨となる扇骨せんこつを地紙の穴に挿し込んでいく「中附け」にチャレンジ。竹を1本1本細く薄く削って仕上げられた扇骨は、竹串より細く、また18本の中骨を小さな穴に挿し込んでいく作業に、保護者の方が見守る中、子どもたちが集中して取り組む様子があちらこちらで見られました。苦労する姿も多く見られ、協同組合の方のサポートを受けながら参加者全員が作業を終えました。達成感を得るとともに、日頃同じ作業をスムーズにこなす職人の技術や苦労を思った子もいたことでしょう。

なお、今回の中附けは、本来事前に塗っておく糊は付けない「空刺し」の体験ということで、最後は伝統工芸士による仕上の工程が行われました。子どもたちは、目の前で見る職人技に興味津々。糊付けして形を整えて仕上げていく作業中の職人の手元に、顔を近づけて見つめる姿も見られました。

作業風景を見学する子ども
作業の様子を間近に見る子ども

扇子を使った伝統的な遊びを体験

職人による仕上げ作業に入ったところで、投扇興とうせんきょうの体験コーナーが設けられ、希望する子どもたちが順番に挑戦しました。

投扇興は江戸時代頃に始まったとされる日本の伝統的な遊びで、「枕」と呼ぶ台に乗せた「蝶」という的に扇子を向けて投げて、扇子が着地した格好と、枕と蝶の位置関係などの状態によって、あらかじめ決められた得点が入るルールで行われます。

挑戦する子ども1人につき5枚の扇子が渡され、1枚ずつ投じて投扇興を楽しむ様子は、楽しみながらも真剣そのもの。高得点を出して大喜びする姿も見られました。

1時間半ほどの体験を通して、京扇子の歴史や種類、用途や仕組み、制作工程の一端や伝統文化の一面に触れた子どもたちと保護者の方々は、京扇子の魅力がより身近に感じられるようになったことでしょう。

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