職人との数日間の交流を通じてじっくりと伝統産業について学ぶ

京都市立御所南小学校「総合的な学習の時間」実践取材レポート

京都市立御所南小学校では、総合的な学習の時間で「匠のつたえ」と題して伝統工芸の魅力を探る学習をしています。

5年生では、京都の様々な伝統工芸について、職人から直接手ほどきを受けたり、話を聴いたりして数日間にわたって指導を受けることから、「弟子入り体験」と名付けてじっくりと体験的学びを深めています。

京都で受け継がれる様々な伝統産業について学ぶ

令和6年度は、京都市で作られている74品目の伝統工芸の中から、京くみひも、西陣織、京友禅、清水焼、京人形、京印章、京こま、京金網、京竹工芸、彫金(金属工芸)の10種目の伝統工芸について学習。児童は、この中から自分が探究したい伝統工芸を選んで希望を出し、学級の枠を越えて1つの伝統工芸につき1グループが編成される形で活動をはじめました。

 

活動は、各伝統工芸の職人を「師匠」と呼んで、児童は弟子入りして体験的に学ぶという主題の下で、それぞれの工房や仕事場を訪れたり、師匠から教わりながら実際に制作を体験したり、各伝統工芸の歴史や特徴、工程などの話を聞いたりしながら、グループごとに4~5日間にわたってそれぞれ理解を深めました。

 

そして、グループごとに異なる伝統工芸について学んだあとには、各自が学級に戻ってクラスメイトが体験した他の伝統工芸についても、各々が学んだことを共有しながら、「京都の伝統工芸の魅力とは」について意見を出し合い、まとめるとともに、学んだことを周りに発信する取組みをもって学習の総仕上げとしています。

 

この「匠のつたえ」の学習では、一貫して児童の主体性が尊重されるとともに、能動的に協働する場面も多く、伝統工芸職人と児童との関係性によって学びが育まれ、先生はサポートに徹する形が特色となっています。

京こまの「師匠」による講話では、幅広いテーマについて聴講

師匠の講話01
京こまについて話をする中村さん(京こま匠雀休)

伝統工芸「京こま」を選んだ子どもたちは、1日間の工房見学、2日間の制作体験を経たのち、師匠を学校に招いて講話を聴きました。

まずは独楽についての話があり、日本では昔から独楽は縁起がいいものとして、正月遊びや贈り物などに使われてきたことや、独楽の発祥は4000年前のエジプトと考えられており、当時は足で蹴って回す「蹴り独楽」だったこと、それがシルクロードや南半球の海を渡って日本に伝えられたことなどを教わりました。

次に、1400年前の日本最古の独楽が、2020年に滋賀県で発見されたという話題から日本の独楽の話に。全国各地に独楽文化が広がり、地域ごとに独自の発展を遂げていく中で、雪の上でも回せる青森の独楽「ずぐり」や、人に見せるためにパフォーマンスと共に使われた東京の曲独楽「江戸独楽」、独楽同士をぶつけて喧嘩をさせて遊ぶ長崎の「佐世保独楽」、赤ん坊の成長を祈って贈り物に使われた「姫路独楽」など、日本には古くから用途や姿かたちの異なる多彩な独楽が人々に親しまれてきたことを学びました。

そして、着物文化が発展した京都では、安土桃山時代ごろから着物の端切れを使って独楽を作るようになったというルーツに触れつつ「京こま」について解説されました。他地域と大きく違うのが布を使うということや、人々の身近なものを活用して作られることから現代のリサイクルやSDGsにつながる伝統工芸であることなど、子どもたちは京こまの特徴について理解を深めました。

独楽そのものの話に続けて、伝統工芸の仕事に関連して、京こまが時代の流れとともに売れなくなって衰退したという話がありました。作り手が減少し続けた結果1980年頃から2000年頃の間は京こま職人一人もいない時代があったとのことで、ご実家が京こま製造を生業にされていた師匠も、就職する年齢になると仕事は会社員を選んだといいます。しばらく会社勤めをしていた師匠でしたが、子どもの頃に京こまに親しんでいて手伝いもしていたことを思い出し、京こまの魅力を再認識し、一念発起して京こま職人に。その後の試行錯誤や苦労、京こま職人としての喜びなどの話をされました。

モニターとPCを使いながら約1時間にわたった師匠の講話では、子どもたちは既に終えていた制作体験で作った自作の京こまを傍らに置きながら、熱心に師匠の話を聴いていました。「独楽」の字は、回すと音がする「鳴り独楽」の特色を表した「独りで音楽を奏でるもの」から来ていると話された際には、独楽の種類は違うものの、机の上で自作の独楽を回して耳を澄ませる児童のしぐさも見られ、好奇心を抱いて積極的に学ぶ様子がうかがえました。

講話が終わった後は、子どもたちの質疑応答の時間へ。次のような感想や意見が出されました。

【児童の感想・質問】
    • 独楽は日本各地で作られていて、いろいろな種類があるのが面白いと思いました。
    •  師匠が、京こま職人がいない暗黒の20年とコロナ禍という大変な時期を2回も乗り越えたのがスゴイと思いました。
    •  試練の時が来ても、他の伝統産業や分野とコラボする企画にチャレンジして切り拓いていったという話が印象に残りました。
    •  赤ちゃんの成長を祈る贈り物の独楽や、青森の雪の中で回して遊ぶ独楽など、それぞれの環境や生活から生まれた独楽がいろいろあるなと思いました。
    • 師匠が京こまを復活させなかったら、僕たちが京こまという伝統文化を知ることもなかったので、体験できてよかったです

【師匠の応答】実は伝統産業というのは、意外となくなっているものもあるんです。職人の年齢的なことや後継者がいないために廃業されて一つの仕事が無くなっています。無くなるときというのは、人にはあまり知られないことが多くて、静かに消えていくという寂しい面もあります。でも、産業としては無くなってしまいましたが、誰かがやろうと思えばまた復活ができる。京こまも一度無くなりましたが復活させて、なんとか頑張って仕事として残していける方法を見つけ出しました。それはとても難しいですが、できると思います。

    • いろいろなデザインや形の京こまが作られていましたが、作りやすいデザインや難しいデザインはありますか?

【師匠の返答】アニメのキャラクターの京こまをコラボで作るときなどは、色の指定が厳密に決まっていたりするので、難しいです。また、丸くないものは難しい。たとえば祇園祭の鉾など。フルーツや野菜は作りやすいでが、バナナは難しいです。

授業が終わった後、自作の京こまで遊ぶ子どもたち

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