京都市では、子どもたちが芸術家や職人、地域の方から「伝統文化や伝統産業のほんものの魅力」を学ぶ機会の充実を図るための事業を継続しています。その取組みの一つとして、小・中学校での伝統産業体験教室を展開しています。
この事業では、希望する学校に市を通じて職人を講師として派遣する形で行われており、伝統文化教育と伝統産業のPRを兼ねて取り組まれています。
同事業に関して、今回、京都市立烏丸中学校で行われた清水焼絵付け教室の様子を取材しました。同校は、校区に相国寺や妙顕寺ほか多くの寺院をはじめ、河村能舞台や京菓子資料館、茶道家元の茶室である今日庵(裏千家)と不審庵(表千家)などが点在しており、京都の伝統文化や歴史的文化財が息づくエリアに立地しています。
その環境を活かして伝統文化教育を一つの特徴としており、総合的な学習の時間では3年間を通じて様々な伝統文化に親しみながら、学びを深めています。新型コロナウイルス感染症流行の影響を受けて、昨年度と今年度は例年の取組みを中止または変更せざるをえなかったものの、数を減らしながらも伝統文化に関する体験型学習に取り組みました。例年、家庭科での和装着付け体験や美術科での屏風絵鑑賞、今年度は残念ながら中止となった国語科と音楽科での平家物語演奏鑑賞と琵琶演奏体験など、各教科の学習として取り組む授業も多く、総合的な学習の時間と横断しながら探究的な学習を進めています。
今回行われた2年生の清水焼絵付け教室は、本来は1年生時に陶芸教室を開いて生徒が抹茶椀を作る計画がコロナ禍で中止となり、代替として実施するもので、生徒たちがそれぞれ作る抹茶椀は、3年生時の茶道作法教室で使うという流れの一環となります。
この日は、コロナウイルス感染防止対策のため2クラス58名の生徒が6教室に分散し、各教室に職人が2名ずつ付いて指導に当たる形で行われました。まず、職人の方から説明があり、筆の使い方や絵の具の塗り方、塗る際の抹茶碗の持ち方や間違えたときの直し方などについて一通り教わりました。
生徒たちは、あらかじめ用紙に描いておいた下描きをもとに、まずは上絵付前の無地の抹茶碗に鉛筆で下絵を入れていきました。作業前に職人の方から、お茶席では季節を味わうことも楽しむ要素のひとつであり、抹茶椀の絵柄も季節の花が描かれたものや、無地のものや抽象的な柄のものもあること、抹茶椀には正面があることなど、抹茶椀の基本について説明を受けました。
その後、実際に生徒が絵付けをする折には、「『こうでなければいけない』という考えは忘れて、自由に好きなように表現してください」と、楽しむことがテーマに掲げられました。
また、生徒が用意してきた下描きにこだわらず、いまの気持ちで描いてもらったらいい、というアドバイスもあり。さらには、色を混ぜ合わせた場合は、水彩絵の具と違って焼き上った際に強い色が残って弱い色は消されてしまうなど、絵の具の扱いや色の仕上がりについての説明もありました。
教室では2つのグループに分かれて絵付けを進める中、生徒同士がそれぞれの進捗や感想ほか、普段と変わらない仲間同士のおしゃべりを交えながら、楽しく作業を進めていました。迷いなくどんどん作業を進める生徒、描き始めがなかなか思い切りのつかない生徒など、それぞれの個性を覗かせつつ、時折手ほどきを受けて進めていきました。
作業が難しいポイントに差し掛かった際には、「これ、どうしよう。どうしたらいいか分からない」と悩む姿が。そんな時には、先に作業を済ませた別の生徒がそばまで来て教える様子も見られました。
5・6限目の計1時間半にわたって取り組まれる中、5限目の終わりごろになると早くも仕上げる生徒が出始め、やがて次々と生徒作品が中央の机に並びました。
干支や自分の好きな動物を描いた作品や、童話の世界をモチーフにした作品、植物を抽象化したデザインの作品、お気に入りの漢字をあしらった作品など、生徒の感性が表現された多彩な作品が仕上がりました。
そして、制限時間内に生徒全員が絵付けを完了。焼成などの後工程は、工房で職人の方々の手に委ねて、後日作品が学校に届けられる運びとなりました。
今回の授業を通して、生徒たちは初めて清水焼絵付けに挑戦しましたが、美術科の授業で扱う筆や絵具と似ているとはいえ、素材と特性の異なる絵の具で、画用紙ではなく器に絵を描く作業に、最初は戸惑いもあったようです。
職人の方のアドバイスを受ける中でその技の一端を知ることとなり、美しく描き上げるには熟練の技が必要なことを感じた生徒もいた様子でした。授業後のインタビューでは、作業を通して感じたことや伝統文化について思うことなどを語ってくれました。
下描きを用意していたけど、いつも紙に描いているのと違って、思っていた色が出せなかったり、水の量が結構重要だったので難しかったです。最終的には満足いく出来になりました。
竹の絵柄を描く際に、職人さんから「葉に葉脈を描き入れるといい」というアドバイスを受けて、その通りにしたらすごくいい仕上がりになりました。
紙に描く時とは勝手が違って、色の濃さを水の量で調整するのが難しくて描きにくかったけれど、なんとか描きました。
雲を描くときにうまく色をぼかしたかったのが、職人さんの「スポンジを使ったらいいよ」と教えてもらって、その通りにやったらすごく上手にできたのでよかったです。職人さんの技を知って、すごいなと思いました。
絵の具の色が、水彩絵具と違って渋い感じで、鮮やかさを出したかったけれど、難しかったです。逆に、清水焼の絵付けは、職人さんしかできない難しいことかと思っていたけれど、やってみたら自分たちでもできました。
普段の生活では、あまり清水焼を意識していませんでした。けっこう自分とは遠いものかと思っていたけど、実際にやってみたら楽しかったし、また絵付けをやってみたいと思いました。
茶碗に手の油が付くと絵の具をはじくし、絵付けの時はそういう細かな注意を払って作らないといけないと知って、それを長年受け継いでいる伝統文化ってすごいなと思いました。
思うような色が自分は出せなかったけれど、職人さんは毎日の仕事で色を自由に使っていると思うと、すごいなと思いました。