伝統を守り伝える“こころ”について考える授業

京都市立御所東小学校「総合的な学習の時間」レポート

去る2021年2月1日(月)に、京都市立御所東小学校の「総合的な学習の時間」でゲストティーチャーを招いて行われた授業を取材しました。

同校では、3年生~6年生の各学年で年間に取り組む総合的な学習の時間を、「総合『みらい』」「総合『こころ』」「総合『こくさい』」という小単元ごとに3つのテーマに分けて、体験を踏まえた探究的な学習活動を進めています。

伝統工芸職人を招いて「匠のこころ」を学ぶ

今回取材したのは5年生の「総合『こころ』」の学習で、「匠のこころ」と題した取組です。「伝統工芸に携わる人の仕事に向かう姿勢から、伝統を守り伝える“こころ”について考える」ことを課題として、12月には京都伝統産業ミュージアム(左京区)を訪れ、京都のさまざまな伝統工芸品や、訪問時にたまたま期間限定で実施していた京七宝協同組合の展示会での製作実演を見学しました。

その経緯を踏まえて、今回、京七宝協同組合に所属するwayuplus+代表の伊佐さんをゲストティーチャーに迎えて授業が行われました。この日の5・6限目に実施された授業では、伊佐さんから七宝焼の特徴や由来、製作工程の説明や、京七宝組合の活動や自身と七宝焼の関わりについての話を聞くとともに、児童の質問や意見、感想を発言する時間を交えて、授業者と児童が交流しながら授業が進められました。終盤では製作実演があり、書画カメラでスクリーンに写し出される作業中の手元を見ながら、子どもたちや担任先生が質問をし、伊佐さんがその都度答える場面がありました。

この授業では、多目的室に2学級の児童40名あまりが参加。ゲストティーチャーの話が始まると、皆が熱心にメモを取る姿が印象的で、授業が終わるころにはワークシートにびっしりと書き込んで、裏面まで使っている児童もいました。メモの取り方も、ゲストティーチャーの話し言葉をそのまま書き綴るだけでなく、要点を箇条書きしたり、図を用いて書き表したりするなど、話の意味するところを捉えて、考えながら書いている様子がうかがえました。

子どもたちが発言する場面では、教室のあちこちから挙手があり、当てられた児童は、自分が思ったことや感じたこと、疑問に思ったことを、自分の言葉で伝えていました。また、今回の主題である「匠のこころ」に関して、職人がどのような思いで伝統工芸品を作っているかについてさまざまな質問が出され、子どもたちの興味関心の高さや探究への積極的な姿勢が表れていました。

【ゲストティーチャーへの質疑応答から抜粋】 ※括弧は児童の質問

「七宝焼を作るときにどんな思いを込めて作っていますか」

まず、人に喜んでもらえるようなものを作りたいと思っています。

また、伝統工芸や七宝焼は、古いイメージを持たれることもありますが、古い伝統の技術を用いて新しい七宝焼を作っていきたいと、もう少し私たちの身近で楽しんでもらえるようなものになってほしいという思いで作っています。

「七宝焼の好きなところはどんなところですか」

絵を描くのと同じように、色を自分で作り出せるのが魅力で面白いです。仕上がったときにはガラス質でキラキラと輝いて美しく、キレイなところは気に入っています。

「七宝焼を作っているとき、上を目指していくときは、つらいとか苦しいときはありますか」

好きなことをやっていく中でも、苦労とかうまくいかないことは必ずあるけど、なんとかそれを解決したいなと思って、いろんなことを調べたり工夫したりして、乗り越えたときはうれしいし、自分は成長したなと感じます。

「どういうことを心がけて作品を作っていますか」

日本の伝統柄や古典的な色が好きなので、そんな日本的なものや京都らしいものを大切にしながら、現代の人にも喜ばれるようなデザインを心がけています。

「伝統工芸品など自分の手でつくることの良さはどんなところですか」

大量生産はできなくて、手間はかかりますがひとつひとつ愛情をこめて作っているので、人が作った温かさや、古い歴史とともに培われてきた伝統工芸品が持っている歴史などを感じられるところです。

「七宝焼を作るにあたって、注文に合わせて作っているのか、思うがままに作っているのかどちらですか」

自分が作りたいものを作る場合と、こういうものを作ってくださいという場合があります。

「七宝焼を作っていて誇りに思うことはなんですか」

先人が培ってきた歴史的文化に携われることは誇りにおもっています。

「七宝焼の良さや魅力は何だと思いますか」

ガラス質で、色が変わらなくて、大事に使ってもらったら100年たっても色は変わらない、それが七宝焼の良さかなと思います。

児童の学びへ向かう姿勢が授業に活気をもたらし、より深い学びへと展開

コロナ感染拡大防止のために緊急事態宣言が出される中、十分に感染対策がとりながら実施された今回の授業では、御所東小学校の先生方の「子どもたちの学びを止めない」との強い思いと、児童の学ぶ意欲の高さがうかがえました。子どもたちから次々と出てくる質問と、それに答えるゲストティーチャーの言葉、そして授業の流れを整える担任先生のサポートによって、授業が生き生きとしたものに展開していきました。

授業の最後、子どもたちが京七宝の帯留やアクセサリーを間近で見る場面では、時間をかけて熱心に眺める児童の姿も見られ、男女問わず本物の伝統工芸品の魅力を感じた様子でした。

同校5年生は、京七宝のほか、清水焼と京竹工芸の職人をそれぞれ別日に招いて体験授業を受けました。職人の仕事に対する思いを直接聞くだけでなく、培われてきた伝統の技とそこから生みだされる伝統工芸品の“本物の輝き”に触れたことで、知識だけではなく実感を伴って理解を深めることができたことでしょう。

本物(実物や現実)に接することや当事者の話を聞くことが、子どもたちの学びへの欲求を高めている様子が見られた今回の授業。今年度からスタートした新しい学習指導要領にも盛り込まれた「社会に開かれた教育課程」の理念に沿った取組としても、ゲストティーチャーによる授業の可能性はもっと広がるのではないでしょうか。そして何より、京都市立御所東小学校5年生の皆さんの学びに向かう積極的な姿勢が、共に学びあう上で活気を生み出し、教える側の言葉を引き出してさらに深い学びへと展開していたことに、子どもの興味や関心を育むことの大切さを感じさせてくれました。

(取材・文責:一般社団法人京学ラボ)

前の記事

プライバシーポリシー

次の記事

取材レポート